ゆめのね

明晰夢に憧れて 〜 夢のなかで「夢だ」と気づく、はじめの一歩

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はじめに

夢を見ているまさにその最中に、「ああ、これは夢なんだ」と気づく瞬間がある。
落下していたはずなのに、そう気づいた途端、空を飛び始めることができる。
追われていた怪物が、振り向くと光に変わる。

そんな体験を「明晰夢 (ルシッドドリーム)」と呼びます。
古くから世界各地で記録され、現代の心理学や脳科学の研究対象でもある、夢の不思議な一面です。

この記事は、はじめて明晰夢に出会うための、静かなガイドです。


明晰夢とは何か

明晰夢とは、「これは夢である」と自覚しながら見ている夢のことを指します。
英語では Lucid Dream。lucid は「明晰な、澄んだ」という意味の形容詞です。

ふつうの夢は、奇妙な展開でも「そういうものだ」と受け入れたまま進んでいきます。
ところが明晰夢では、夢のなかの自分が冷静に「これは夢の中の世界だ」と判断する。
そして、ときには夢のなかの出来事を意図的に動かすことさえできる、と言われています。

スタンフォード大学のスティーヴン・ラバージ博士が 1980 年代に脳波測定を用いて明晰夢の存在を科学的に確認して以来、研究は世界各地で続いています。


なぜ「気づける」ようになるのか

夢を見ているのはレム睡眠中の脳ですが、このとき、論理的な判断を司る前頭前皮質はほとんど休んでいる状態にあります。
だから夢の中の私たちは、空が緑色でも、亡くなった祖父が現れても、「変だ」と思わずに受け入れてしまう。

明晰夢の研究では、訓練によってこの前頭前皮質の一部を、レム睡眠中も少しだけ働かせられるようになる、と考えられています。
つまり、明晰夢は才能ではなく、習慣で誰でも近づける体験です。


はじめの一歩 — 4 つの練習

明晰夢に近づく方法は、世界中で数多く提案されています。
ここでは、もっとも入り口になりやすい 4 つを紹介します。

1. 夢日記をつける

毎朝、目覚めた直後の数分で、その夜に見た夢を書き留めます。
覚えていない日は「夢を思い出せなかった」と一行だけでも構いません。
夢を意識する習慣そのものが、明晰夢への基礎体力になります。

ベッドの脇にノートを置き、起き上がる前に書き始めるのがコツです。
夢の記憶は、起き上がって光を浴びた瞬間、するすると逃げていきます。

2. リアリティチェック

日中、何度か「今、自分は夢を見ているか?」と自問する習慣をつけます。
そのとき、現実かどうかを確かめるサインを決めておきます。

  • 手のひらを 10 秒間じっと見る (夢のなかでは指の本数が変わる、と言われます)
  • 文字を読んで、目を逸らしてもう一度見る (夢のなかでは内容が変わりやすい)
  • 時計を二度見る (夢のなかでは時刻がずれることがある)

これを習慣にすると、夢のなかでも同じ動作をするようになり、「変だ」と気づくきっかけが生まれます。

3. MILD 法

ラバージ博士が提唱した方法で、寝る前に「次に夢を見たら、夢だと気づく」と心の中で繰り返し唱えるシンプルな技法です。
何度も、静かに、確信を込めて。

4. WBTB 法 (Wake Back To Bed)

5 〜 6 時間眠ったあとに一度目を覚まし、30 分ほど起きてから再び眠る方法です。
朝方のレム睡眠が長くなる時間帯を狙うことで、明晰夢に入りやすくなると言われています。


焦らない、ということ

明晰夢は、求めすぎると遠ざかります。
「今夜こそ気づけるはず」と思って眠った夜ほど、不思議と何も覚えていなかったりする。

夢日記を 1 〜 2 ヶ月続けるうちに、ふとした朝、「あの夢は夢だと気づいていた気がする」という瞬間が訪れます。
最初の明晰夢は、たいてい数秒で覚めてしまいます。
それでも、その数秒は、夢に対する見方を一生変えてしまうほどの体験になります。


おわりに

夢のなかで「これは夢だ」と気づくことは、自分の意識のかたちを覗き込むことに似ています。
普段は当たり前に流れていく日常も、ほんの少し視点を変えれば、夢と地続きであることに気づくかもしれません。

今夜、寝る前に静かに唱えてみてください。
「次に夢を見たら、それが夢だと気づく」
明晰夢への旅は、その一文から始まります。


参考情報

  • スティーヴン・ラバージ『明晰夢 — 夢見の技法』春秋社
  • Stephen LaBerge, Exploring the World of Lucid Dreaming, Ballantine Books