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2025年10月11日3分で読める

睡眠中、脳で何が起きている?〜レム睡眠と夢の関係〜

#レム睡眠##脳科学#ノンレム睡眠#記憶整理#睡眠サイクル#シナプス調整

はじめに

夜が深まり、世界が眠りについたあとも、脳はひっそりと活動を続けています。
それはまるで、外の静けさをよそに、内なる舞台で演じられる密やかな劇のようなもの。
特に「レム睡眠」と呼ばれる時間には、まぶたの裏で夢が息づき、記憶と感情が静かに編み直されているといわれます。

今回は、レム睡眠とノンレム睡眠の違い、そして夢と記憶整理の不思議な関係を、最新の脳科学研究とともにたどっていきましょう。


レム睡眠とノンレム睡眠──静寂と活動の二重奏

眠りはひとつの連続した時間ではなく、リズムを持っています。
人の睡眠は大きく分けて「ノンレム睡眠」と「レム睡眠」のふたつの状態が交互に訪れます。

ノンレム睡眠は、脳波がゆっくりとしたリズムになる深い眠りの時間です。
このとき、脳は外界からの情報を遮断し、全身の修復やエネルギーの再生に集中しています。
いわば、夜の静寂そのもの。

一方、レム睡眠では脳波が覚醒時に近い活発な状態になります。
まぶたの下で眼球が小刻みに動き、呼吸や心拍も少し早まる──このレム(REM:Rapid Eye Movement)の名は、その特徴から名付けられました。
体は眠っていても、脳はまるで目を覚ましているような活気を見せるのです。


夢と記憶整理──夜の図書館のような脳

夢を見るのはレム睡眠だけ…と思われがちですが、実はノンレム睡眠中にも夢に似た体験は起こっています。
ただし、もっとも鮮明で感情を伴う夢は、やはりレム睡眠中に多く見られます。

レム睡眠時、脳の中では記憶の整理と統合が進んでいます。
そのイメージは、まるで図書館の司書が夜中に本棚を並べ替え、関連する物語を並べ直しているよう。
日中に得た断片的な記憶や感情は、この時間にひとつの物語へと再構成されます。

神経科学の研究では、海馬(記憶の一時的な保管庫)から大脳皮質(長期記憶の保管庫)へ情報が転送される際、夢のような断片的なイメージが浮かぶと考えられています。
夢はその過程の「副産物」であるとも、「重要な演出」であるとも言われているのです。


感情と夢──心を整える夜のセラピー

夢には記憶整理だけでなく、感情の統合というもうひとつの役割があると考えられています。
たとえば、強いストレスを感じた日の夜、夢のなかでその出来事をなぞるような場面を体験することがあります。
これは脳が感情を再処理し、心のバランスを保とうとしている可能性があります。

実際、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の研究でも、レム睡眠と悪夢の関係は注目されています。
レム睡眠の質が下がると、感情処理がうまくいかず、日中の不安や過去の記憶が整理されにくくなることも知られています。

夢は単なる幻想ではなく、脳と心が静かに「修復作業」を行う時間のあらわれなのです。


眠りと夢を味方にする──実用的な夜の習慣

夢を鮮明に覚えている人もいれば、ほとんど思い出せない人もいます。
しかし、睡眠の質を高めることで、記憶の整理や感情の統合を助けることは誰にでもできます。

たとえば、
・就寝前のスマートフォン使用を控える
・規則的な就寝時間を保つ
・朝、自然光を浴びて体内時計を整える

これらはすべて、睡眠サイクルをスムーズにし、レム睡眠とノンレム睡眠のバランスを整える助けになります。
夢日記をつける習慣も有効です。目覚めた直後に夢をメモしておくことで、脳はその時間を「重要な情報」として認識しやすくなります。


おわりに──夢は夜の静かな手紙

夢は、無意識の底から届く静かな手紙のようなもの。
それは過去の記憶を整理し、感情を撫で、未来の自分へと渡される小さなメッセージでもあります。

レム睡眠はその手紙が書かれる夜の図書室であり、ノンレム睡眠はその紙を静かに整える静寂の時間です。
このふたつの調和の上に、私たちの心と記憶の健康は成り立っています。

夜を、ただの「休息の時間」ではなく、脳の創造と修復の時間として大切にしてみてください。


参考情報

  • 小山純正「ノンレム睡眠とレム睡眠」日本睡眠学会
  • 宮内哲・寒重之「睡眠と夢」日本睡眠学会