夢を見るタイミングと内容の不思議〜レム睡眠vsノンレム睡眠〜 | ゆめのね

はじめに

夜の静けさのなか、私たちは何度も夢の世界を行き来しています。
鮮明な夢もあれば、目覚めるとすぐ霧のように消えてしまう儚い夢もある。

「夢を見るのはレム睡眠のとき」とよく言われますが、それは半分だけ正解です。
実は、浅いノンレム睡眠の中でも、私たちの脳は小さな物語を紡ぎ続けています。

本記事では、レム睡眠とノンレム睡眠それぞれにおける夢の違いと、
そのリズムがどのように私たちの「記憶」や「感情」と関わっているのかを見ていきましょう。

私たちの睡眠は、およそ90分ごとに「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」が交互に訪れるサイクルで構成されています。
ノンレム睡眠は深い眠りの時間で、脳も体も休息に集中します。対してレム睡眠では、脳が活発に働き、夢を多く見るとされています。

レム睡眠の特徴は、眼球が素早く動く（Rapid Eye Movement）こと。
脳波を見ると、まるで覚醒時のような活発さを見せ、記憶や感情の整理が行われていると考えられています。

一方、ノンレム睡眠では脳波がゆったりとした波形に変化し、深い眠りに落ちていきます。
それでも、完全に「夢を見ない」わけではありません。浅いノンレム睡眠では、情景や感覚の断片のような夢が現れることがあるのです。

たとえば、「声だけ聞こえた」「部屋の中に誰かがいた気がする」――そんな曖昧な体験は、ノンレム睡眠の産物かもしれません。

レム睡眠中の夢は、映像的でストーリー性が強く、感情の起伏に満ちています。
映画のような夢を見た経験がある人は多いでしょう。それは脳の**視覚野や扁桃体（へんとうたい）**が活発に働くためです。

特にレム睡眠の後半、明け方に近づくほど夢は長く、鮮やかになります。
このタイミングで目覚めると夢を覚えている確率が高く、
「朝方に夢をよく見る」と感じるのは、この生理的なリズムによるものです。

また、レム睡眠中は筋肉が一時的に弛緩（しかん）しており、身体が動かないようになっています。
これにより、夢の中で走ったり叫んだりしても、現実の身体は安全に休息を保てるのです。
ただし、まれにこの仕組みが崩れると、「金縛り」と呼ばれる現象が起こることもあります。

ノンレム睡眠中の夢は、感情的な派手さよりも、思考や記憶の再構成が中心です。
例えば、昼間に考えていた課題や心配事が、抽象的な形で夢に現れることがあります。

これは脳の前頭葉や海馬が、情報を整理し、記憶を長期保存へと移行させているプロセスと関係していると考えられます。
つまりノンレム睡眠の夢は、「物語」ではなく「再編集作業」に近いのです。

ぼんやりとしたイメージや断片的な思考――それらは、
一日の経験がゆっくりと記憶の棚に収められていく音かもしれません。

夢の内容は、眠りの深さとタイミングに大きく左右されます。
たとえば、寝つきの浅いときに見た夢は短く途切れがちで、明け方の夢は長く連続的です。

夜中に目を覚ましたときに夢を覚えているなら、それはレム睡眠期だった可能性が高い。
逆に「何も覚えていない」という日は、深いノンレム睡眠がしっかり取れていたサインでもあります。

最近では、睡眠トラッカーやスマートウォッチでレム・ノンレムの周期を記録できるようになりました。
こうしたデータを活用すれば、自分の「夢の傾向」を客観的に見つめることも可能です。

「昨日の夢はどんな気分だったか」「どんな時間帯に夢を見やすいか」
そんな観察を続けるうちに、夢があなた自身の心のリズムを映す鏡のように感じられてくるでしょう。

夢は、ただの幻想ではなく、眠る脳の活動の証です。
レム睡眠で感情が整理され、ノンレム睡眠で記憶が整えられる――
その往復こそが、私たちの心をやさしく保ち、次の朝へと導いてくれます。

夜ごとに訪れる夢の断片は、あなたの無意識が語る静かな手紙。
眠りの質を知ることは、自分という存在の奥行きを知ることでもあります。

次に夢から目覚めたとき、ほんの少しだけ立ち止まって、
その夢がどんな眠りの中で生まれたのか――耳を澄ませてみてください。