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2025年10月13日4分で読める

夢はカラー?白黒?〜夢の色彩感覚を世代比較〜

##睡眠#色彩#記憶#世代比較#心理学#無意識

はじめに

夜の静けさのなかで目を閉じ、ふっと夢の世界へ滑り込むとき。
その景色は、あなたにとって色鮮やかなものだろうか、それとも白と黒だけのモノクロームだろうか。

「昔の人は白黒の夢を見ていた」という逸話は、どこか懐かしいモノクロ映画のワンシーンのように語り継がれています。
実際に心理学の調査では、テレビが白黒だった時代とカラー時代で、人々の夢の色彩に大きな差があったと報告されています。

夢はただの幻想ではなく、記憶・感情・文化と密接に結びついた、脳の“夜の仕事場”です。
本稿では、世代による夢の色彩感覚の違いと、その背後にある心理・文化・神経科学の風景を、静かに辿っていきます。


夢の色彩と文化的背景

20世紀中頃、多くの人々が「白黒の夢を見た」と語っていたという記録があります。
その時代、街の映画館も家庭のテレビも、白と黒で映し出されていました。夢の色彩が当時のメディア環境に影響されていたのではないかと考えられたのです。

1950年代の心理学者たちは、夢の記録と視聴習慣の関係を調査しました。白黒テレビを日常的に見ていた人々のうち、半数以上が白黒の夢を報告し、一方でカラー映画やカラー放送が普及した世代では、90%以上の人が「夢はカラーだった」と答えています。

この調査結果は、夢が単に脳内の“内部現象”ではなく、外界の文化や感覚体験と強く関係していることを示唆します。
夢の色彩は、心の内側だけで完結するものではなく、社会の“映像的記憶”をも反映するのです。


夢の色はどうやってつくられるのか

私たちが夢を見るとき、脳の視覚野は実際に目を開けているときと近いレベルで活性化します。
とりわけ視覚情報の統合を担う後頭葉と、情動を司る辺縁系の連携が強くなり、記憶の断片や感情が、映像として再構成されます。

夢の「色」がそこに加わるのは、この再構成のプロセスで過去の視覚体験が引き出されるからです。
多彩な映像や鮮やかな風景に囲まれて暮らしている人ほど、夢の色彩も豊かになりやすいとされます。

逆に、色彩体験の少ない環境では、脳の“色のライブラリ”が限られ、夢も白黒になる傾向があると考えられます。
これはいわば、脳内の「絵の具のパレット」が環境によって変わるようなものです。


世代差と記憶の共鳴

ある研究では、1930〜40年代生まれの被験者と1990年代以降に生まれた被験者とで、夢の色彩報告率を比較しました。
前者は白黒とカラーがほぼ半々であるのに対し、後者では9割以上が「カラー」と回答。
また、テレビの習慣を変えた高齢者の中には、晩年になってから夢がカラーに変わったと語る人もいます。

この現象は、記憶と感覚が生涯にわたって柔軟に変化することを示す好例でもあります。
夢は固定されたものではなく、人生の“文化的背景”と共鳴してゆく生きた記憶なのです。

この共鳴はまた、世代間の夢の「質感」にも違いをもたらします。モノクロの夢には静寂と構図の美しさが、カラーの夢には鮮烈な感情と動的な世界が宿ると語る人も少なくありません。


日常と夢の色彩をつなぐ

日常の感覚体験が夢に影響を与えるのだとすれば、夢を豊かにするための方法も見えてきます。
たとえば、毎日見る映像の色彩や、自然の景色とのふれあいを意識的に変えること。夜にスマホの冷たい青白い光ではなく、暖色のランプやキャンドルのような柔らかな光に包まれて過ごすことも、夢の色を変えるきっかけになりえます。

また、起きた直後に夢の内容と“色”を記録する「夢日記」は、無意識の色彩感覚を知る一歩です。
記録を重ねると、自分の心のパレットにどんな色が多いのか、静かに浮かび上がってきます。
心理学的にも、色と感情は深く結びついており、夢の色を観察することは心の状態を映し出す鏡にもなります。


おわりに

夢は夜の海のように、私たちの心を映し返します。
モノクロの波間を漂う人もいれば、色とりどりの光が瞬く空を飛ぶ人もいる。
その違いは、単なる個性ではなく、時代と文化、記憶と感情が織りなす風景そのものです。

次に目を閉じるとき、自分の夢の色を意識してみてください。
それは、あなたという存在の記憶の底に静かに灯る、小さな色彩の記録なのです。


参考情報

  • Schwitzgebel, E. (2002). Why Did We Think We Dreamed in Black and White? Studies in History and Philosophy of Science.
  • Murzyn, E. (2008). Do We Only Dream in Colour?
  • National Sleep Foundation(米国睡眠財団)公開資料
  • 心理学・神経科学の基礎研究報告