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2025年10月10日4分で読める

なぜ人は夢を見るのか?夢の役割に関する諸説

##記憶#睡眠#脳科学#感情処理#レム睡眠#心理学

はじめに

夜の深い静けさのなかで、心の奥に浮かびあがる夢。
それはときに、過去の記憶の断片であり、未来への予感のようでもあります。

「なぜ人は夢を見るのか」――この問いは古代から多くの哲学者と科学者を魅了してきました。
現在の科学でも、夢の正体は完全には解明されていません。それでも、いくつかの有力な説が夜の闇を少しずつ照らし出しています。

この記事では、記憶整理説、情動処理説、ランダム活性説といった主要な理論をたどりながら、夢という静かな脳の営みを見つめます。


夢と記憶――「記憶整理説」

夢の役割についてもっとも広く知られている説のひとつが「記憶の整理」機能です。
これは、私たちの脳が眠っているあいだに日中の情報を取捨選択し、記憶を再構築しているという考えに基づきます。

たとえば、ある日に見た印象的な風景や、聞いた言葉。そうした断片はそのままでは脳の中でノイズのように散らばっています。
睡眠中、とくにレム睡眠と呼ばれる浅い眠りの段階で、脳はそれらを再生・編集し、長期記憶として保存したり、不要な情報を消去したりすると考えられています。

これは夜の図書館のようなものです。司書である脳が、一日の情報を並べ替え、必要な本棚にしまっていく。
夢の奇妙さは、その整理の途中で私たちの意識が断片的にそのプロセスを覗き見しているからかもしれません。

神経科学の実験では、学習を行ったあとにレム睡眠をとると記憶の定着が高まることが知られています。
このことは「夢=記憶の整理場」という仮説を強く支える証拠のひとつです。


情動の嵐を鎮める――「情動処理説」

もうひとつの重要な視点が、夢が「感情の処理」に関わっているという説です。
たとえば、怒りや不安、悲しみといった強い情動は、眠っている間に脳の中で“再生”されることがあります。
嫌な夢を見た朝、どこか心が軽くなっている感覚を覚えた経験がある人も多いのではないでしょうか。

この現象は、夢が情動のバランスを取るための“安全な劇場”として機能している可能性を示唆します。
現実の世界では手に余る感情も、夢の中なら暴れさせることができる。
そして、目覚めるころには感情の波が少し穏やかになっている――そんな心理的クッションの役割を担っているのです。

特に、トラウマ体験や強いストレスと夢との関係は、多くの研究が進められている領域です。
夢が「心の掃除機」のような働きをしているという比喩も、あながち的外れではありません。


意味はあとづけ?――「ランダム活性説」

さらに大胆な説として「ランダム活性説」と呼ばれる仮説もあります。
これは、夢にはもともと“意味”はなく、睡眠中に脳がランダムに活性化した神経信号を、目覚めた私たちが物語として意味づけしている、というものです。

たとえば、断片的な映像や音、感覚が脳内で勝手に流れ、それを統合する物語装置として前頭葉が働く――この過程が「夢」として経験されるのです。
つまり、夢は「意味を持った現象」ではなく、「意味をあとからつけられた現象」だという立場です。

この説は、夢の内容が唐突で支離滅裂になりやすいことをよく説明できます。
また、夢を見たあとに「なぜかしら筋が通っている」と感じるのは、私たちの認知の癖――世界を理解可能な物語として再構成する心の性質――が働いている結果なのです。


夢を身近に感じる――「わたしの夢」を記録する意味

夢はどれほど科学的に分析されても、最後には個人の物語として立ち現れます。
たとえ脳の活動がランダムだとしても、そこに「何か」を見出すのは自分自身です。

夜の夢は、心の深い部分に潜む想いを映し出す鏡のようなものです。
不安な夢、優しい夢、鮮やかな夢。
そのすべてがあなた自身の無意識の記録であり、静かな対話のはじまりでもあります。

夢を記録することで、自分の心の変化や感情の揺らぎを可視化することができます。
それは科学的な分析にも、自己理解にもつながる、小さな灯りのような営みです。

もしも、夢を丁寧に書き留め、後から読み返すことができたなら――
日常では気づかない「あなた自身の声」が、静かに浮かび上がってくるかもしれません。


おわりに

夢は科学の対象でありながら、同時にとても個人的な物語でもあります。
記憶の整理、感情の処理、あるいはランダムな活性。
どの理論にも一定の根拠があり、そして決定的な“答え”はまだ見つかっていません。

夜ごとに脳が織りあげる夢は、現実の延長線であり、また別の宇宙のようでもある。
だからこそ、人は古来から夢に魅せられ、そこに意味を見出してきたのです。

もしも、自分だけの夢の軌跡を記録してみたくなったなら――
Yumenoneは、静かにその物語を受けとめる場所として、あなたを待っています。


参考情報

  • Stickgold, R. (2005). Sleep-dependent memory consolidation. Nature, 437(7063), 1272–1278.
  • Nielsen, T., & Levin, R. (2007). Nightmares: a new neurocognitive model. Sleep Medicine Reviews, 11(4), 295–310.
  • Hobson, J. A., & McCarley, R. W. (1977). The brain as a dream state generator: an activation-synthesis hypothesis of the dream process. American Journal of Psychiatry, 134(12), 1335–1348.
  • Walker, M. (2017). Why We Sleep: Unlocking the Power of Sleep and Dreams. Scribner.