取り壊される前の実家に戻っていた。両親が食卓に座っていて、母が味噌汁をよそっている。父は新聞を読んでいた。いつもの風景のはずなのに、壁が薄くなっていく。透き通った壁の向こう側には建設機械が見えている。母は気づいていない様子で、私に「冷めないうちに」と声をかけてくる。父は新聞をめくる音を立てている。食卓の脚が床に根を張り始めた。両親の顔がだんだんぼやけていく中、私は椅子に座ったまま動けなかった。 先月、実家の取り壊しの日程が決まったという連絡をもらったばかり。あの家での食卓の情景が、なくなる前に脳に焼き付こうとしているのかもしれない。